うしろすがたのしぐれてゆくか

愛するフレンチブルドッグと昨日と今日と明日と旅と。

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 くもりのち雨の予報だったのに、すこし晴れ間も見える天気だった今日。校正が出てくるのを待ちながら洗濯機を3回まわしたあとで、布団カバーをとり替えることにした。
 あとひと息で春なのに。もうしばらくしたらどうせ圧縮されてしまわれる運命だというのに。いま羽布団のカバーを替えることもないよな……と自分でも思いつつ、それでもやると決めたらやるしかない。
 最近やけに目がかゆいし、くしゃみや鼻水がひどい。花粉症かと疑ったけれど、外に出るとぴたりと症状がやむ。どうやらハウスダストらしいと今日になって断定。しかも夜眠る前がいちばんひどいとくれば、犯人はきっと布団だ。
 掃除機で埃を吸い取って、さあ、あとはカバーを替えるぞ!
 しかしこれが案外重労働で、めんどくさい作業。私は精神的な苦行にはわりと耐えられるが、肉体労働にはからっきし向いていないんだった。
 
 高校2年生の夏休み。私はクリーニング工場でバイトをすることにした。それは思いのほか体力的にキツい仕事で、出勤初日は腕が痛くて夜中に目が覚めてしまった。母親がマッサージしてくれたおかげでなんとか眠りにつけたようなもの。
 けっきょく3日目で音を上げて辞めさせてもらい、焦った末にようやく探しあてたのは、英文タイプライターを組み立てる工場。あの頃私のまわりでは、お小遣いの少ない高校生が、せっかくの夏休みにアルバイトをしないなんて時間のムダ、という空気が流れていた。だから、いくら400円台という安時給であろうとも、バイトすることに意義があったのだ。
 
 バイト先には偶然、中学時代の同級生や近所の顔見知りなども何人かいて、お昼ごはんを一緒に食べたり挨拶をかわしたりしていた。
 ある日の昼休み。同年代の学生みんなで話しているときに誰かが言った。含み笑いといっしょに。
ーーKのお母さんってこんなとこで働いてるんだねーー。
 そこにはちょっとイヤな響きがあった。こんな田舎の。こんな工場で。働いてるんだ。一生ここで働いてゆくんだ。どこへも行かないで。ずっとここで。
 確かにその仕事は難しいものではない。ベルトコンベアで運ばれてくる部品を手に取っては組み立ててゆく単純作業。座りながらできるし。
 だけど、指先に黒い油のシミがつく。だから休み時間がくるたびに、そこで働いている全員が石けんでゴシゴシ黒いシミを洗い流す。どうせ休み時間が終わればまた染まってしまうのに。1日に何度も何度も洗うのだ。もちろん私も。

 工場で働いている主婦を嘲笑していた同級生たちは、あの、田舎特有の先が見えてしまう人生が、ほんとうは恐ろしかったんだと思う。
 それならいま、彼女たちはどこに住んで、何をしているんだろう。

 
 
 
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2010.03.16 21:08 | どこにも属さないお話 | トラックバック(-) | コメント(-) |
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