うしろすがたのしぐれてゆくか

愛するフレンチブルドッグと昨日と今日と明日と旅と。

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それはもう生涯忘れることなど絶対できない
足の先から頭のてっぺんまでが凍りつくような出来事だった。
私たちはバリでカデという男の子ととても親しくなった。
彼はホームステイ先のイブの親戚の子で、その時たしか12歳だったと思う。
知能と四肢に少しばかり障害があり、イブの話によれば
幼児の頃に高熱を出したせいだそうだ。

親戚といえども、同じ敷地内に住んでいる以上
イヤでも毎日顔を合わせる。
はじめのうちこそちょっぴり恥ずかしそうにしていたものの
もともと人懐っこい彼と仲良くなるのに
それほど時間はかからなかった。

とてもユーモア溢れる性格で、時にはおかしな形のサングラスをかけて現れ
周囲を笑わせたりもした。
身体のためなのか、よく、お母さんが作ってくれる
ジャムー(インドネシアの漢方薬のようなもの)を飲んでいるのを見た。

言葉も、しっかりした発音ではないのでかなり聞き取りづらいのだが
どういうわけかコミュニケーションはばっちりとれる。
いつのまにかとてもなつかれて、一日に何度も部屋に遊びに来るようになり
いつもラジオから流れてくる歌に合わせて大声で歌っていた。

一見とてもイノセントに見える彼も、その年頃~思春期の始まり~
の少年らしく、ちょっとずつ女の子への興味をのぞかせたりもして。

ある日カデに聞かれた。
「将来の夢は何?」
「・・・・・」
確か何か答えたはずだが、覚えていない。
「じゃ、カデの夢は何?」
「バカになりたい!」

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カデは親戚じゅうの皆からとても愛され可愛がられている少年で、
お祭りの日に、他の子供達といっしょに瓶のファンタを飲んでいたとき、
そのオレンジ色した液体がまだ2/3程も残っているというのに
いきなり庭の木めがけてバシャバシャ捨て始めた。
私があっけにとられて見ていたのを
「カデはもういらなくなったから木に水をあげているんだよ」
ニコニコしながら宿のバパがささやいた。

バリにだってもちろん障害者はいて、一部ではあまり外に出さずに
家に居させるという話も聞いたことがあるが
私たちが見る限りでは、普通にお祭りに参加していたし
カデにしたって週に何日かは、髪にいい香りのする油を付けてもらって
ビシッと制服を着こなし楽しそうに学校に通う。
その為に特別なスニーカーを買ってもらっていた。

そんな楽しい日々に水を差すかのように
悲劇は突然やってきた。

その日のお昼過ぎ。
いつものようにカデが私たちの部屋に遊びに来ていて
もうそろそろ帰ると言っていたので、私は部屋の中に戻っていた。
しばらくして
「カデ! カデ!」
だんごさんの叫ぶ声が聞こえた。
慌てて外へ飛び出すと、カデはだんごさんに抱きかかえられて
目を開けたまま気絶していた。
「どうしたの?」
「帰ろうとした時、階段ですべって頭を打った!」

バリの家庭は部屋の外にテラスがあるが、たいてい数段階段を上がる。
下はコンクリートとタイルでかなり固い。
相当な勢いで倒れたようで、思いきり頭を強打したらしい。

ちょうどそこへ彼のおばさんが通りかかり、私たちの姿を見るやいなや
すっ飛んできて、名前を叫びながらほっぺたをパチパチ叩き続けると
しばらくしてなんとか意識を取り戻した。
しかし、表情は無いし、顔面蒼白で目はうつろ…。
私は驚きと心配で、泣きたい気もちだった。
でも泣いたからといってどうなるわけでもない。
誰も私に同情なんてしてくれるわけでもないんだし。

次第に家族が集まってきた。
「カデ! お父さんがきたぞ、もう大丈夫だ」
意識を取り戻してなんとか立ち上がったけれどすぐに嘔吐し
見るからに危ない状態。
なにしろ打ったのは頭だし、普通の子と違って身体が不自由なせいで
普段からひとつひとつの動きにもかなり力が入っている。
それだけに転んだ衝撃も凄かったのだろう。

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私たちがどうしたらいいのか判らずに、ただ立ちすくんでいると
ばあちゃんがこっちを見て
「だいじょうぶだよ」
おどけた感じで二コッとした。

「医者に行く」と連れていかれてからは本当に生きた心地がしなかった。
ちょうど私は部屋で買ってきたごはんを食べ始めたところだったのだが
一気に食欲なんてなくなった。
もしもこのまま死んでしまったらどうしようと考えると、体が震えた。
どうしよう どうしよう どうしよう・・・
もうなんにも手に付かない。
結局その日はわたしもだんごさんもろくすっぽ眠れなかった。

その後戻ってきたお父さんに話を聞きに行くと
骨や脳に問題は無かったと言われて、本当に安心した。
部屋の奥の方に見えたカデは、頭を打ったせいで寒けがするのか
厚手のジャンパーを肩にはおり、なにか温かい飲み物を飲んでいるようだった。
そして私たちの姿を見ると照れたように笑った。

「もしかしたらもう、2度と部屋に遊びに来ることはないだろうな・・・」
その時わたしは漠然と思った。   
(次回につづく)
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